通常診療全面再開のお知らせと【院長闘病記 前編】
掲載日:2022.07.15
みなさま、こんにちは。
院長 稲熊の新型コロナ感染のため7月6日より診療制限を行ってきましたが、自宅療養を終えました。16日より通常診療を全面再開いたします。通常診療に加え、第7波で患者さんが増加する中、発熱外来を閉鎖していた事で地域の皆さまには御心配をおかけしました。
【院長の闘病記前編】
7月5日
夕方から咽頭違和感のみあり。発熱なし。7月3日~5日まで墓参のため道外に出ていたため、体調不良のままでは万が一コロナ感染であった場合にスタッフや患者さんへの影響が出ると考え自院で夜間に検査。結果は陽性。結果を見て一瞬頭が真っ白になる。患者さんやスタッフ、その家族、前日までお会いした人々の顔が走馬灯のように浮かぶ。
普段は診療する側として淡々と診療結果を伝えている事なのに、わが事になるとこれほどまでショックを受ける、その事実にまたショック。
最終診察日は7月2日。発症や時間的には自分からスタッフや患者さんへの感染はほとんど無いと断言できるが、発熱患者さんからの感染は否定できない。また旅行の移動の時なのか答えの出ない事を考え、悶々とする。
自分自身の発生届を自分で保健所にFAXする。軽症だし、未だに実感が湧かない。
翌日の対応準備も含め、ほぼ寝られず。
7月6日
朝、スタッフに周知して臨時休診を決める。スタッフ全員クリニックで即検査。陽性がいたらご家族への影響も含めると大変な事になると思ったが、全員体調変化なく陰性を確認。
スタッフへの感染が無いことで、患者さんの感染リスクはほぼ無いだろうと、ようやく少し安心する。スタッフにはクリニック休診の張り紙や来院予定の予約患者さんの対応などをお願いする。発熱外来は千歳市民病院と千歳第一病院に頭を下げてお願いした。
旅行先で会った人々にもLINE、携帯などで連絡する。旅行中は全く症状なく、気軽に会っていたが、感染が分かった今となっては一体どれ位の人たちに影響があっただろうか。
友情や旧交の繋がりで会った方々も、家族や仕事など、感染から守りたい人々に連なるはずである。自分が感染の事実を告げてどれほど不安にさせてしまったのかと戦慄に似た恐怖を感じる。こちらはひたすら申し訳なく、お詫びの言葉を重ねるしかない。
「大丈夫だよ、お互い様だよ。こちらはきちんと対応するよ。心配しないでしっかり休んで治しなさい。」皆からの一様に温かいメッセージの返答に目頭が熱くなる。
症状が少しはっきりしてきた。喉のいたみと咳。あらかじめ解熱剤を内服しているため微熱程度ですんでいる。
保健所からの初めて電話がある。相手はいつも患者問い合わせの電話をくれる担当者。
「あの、これは先生が感染されたということでよろしいでしょうか。体調はいかがですか。」
「はい、そうです。体調は喉と咳ぐらいで熱も大してありません。元気です。」
「あの、そうするとしばらく休診ですか。」
「あ、いえ。体調自体は良いので自宅にいながらクリニックのスタッフと連携してオンライン診療は行うつもりです。」
「ああ、そうですか、それは良かった。それでは自宅療養患者を保健所から紹介しても診察していただけます、と言うことですね。」
こうして、あっさりと在宅リモートワークが決まった。
当院は開業時からITを使ったオンライン診療のシステムを備えている。それはコロナ禍前であったが、時代の先を予見してと言えば聞こえは良いが、実は「院長が急病でクリニックに不在」の時にも何とか診療を継続し、スタッフの職場と収入を守るために考えた自分なりの対策のひとつである。
そうは言ってもオンラインで出来る診療も患者数もたかがしれている。診療所の収入が無くなってもスタッフの給与、卸業者への支払い、家賃、税金、支出は免れない。何より急に悪化して入院したり長期化したら経営はどうなるんだろう。
「開業医もラーメン屋の大将と同じさ。倒れたら終わりの個人事業だよ。」と研修医の頃から先輩開業医に散々聞かされてきた言葉が不安となって覆いかぶさる。
開業した直後にコロナ禍になり、ちまたに発熱患者が溢れる中で正義感と意地で始めた発熱外来も、いざ自分がコロナに感染してしまってはどうしようもない。国も北海道も営業補償なんてしてくれないもんだ。体調の悪化もあって色々な思いが行ったり来たりする。
7月7日
予約の外来患者さんへつなぎの投薬処方やオンライン診療を中心に限定的な診療を開始。
必要最小限のスタッフが診療所に出勤して補助してくれる。
オンライン診療のシステムをそのまま使用してスタッフと朝のミーティングに始まり、患者さんとのオンライン診療を行う。
オンライン診療の前に医療クラークがWEB問診の結果や直前数回の電子カルテ画面や採血結果を送ってくれ、それを確認してから実際の診療になる。患者数が少ないから良いものの、リアルタイムでカルテを見れないもどかしさがある。やはりこれから電子カルテはクリニックに設置するサーバー型カルテではなくて、ネットでどこにいても見られるクラウド型カルテにしていくべきだと思う。
オンライン診療が始まる。
「こんにちは。緑町診療所院長の稲熊です。オンラインで失礼します。実は私も新型コロナになってしまい、自宅からオンライン診療しております。お加減いかがですか?」
新型コロナで自宅にいる患者さんを、同じく新型コロナで自宅療養の医師がオンラインで診療する。幼いころに読んだドラえもんの世界のような医療を自分がやっている。いや、まだ21世紀だし、自分はアラフィフのおじさんだ。未来がやって来たのではない、自分が年を取ったのだ。
試運転のような診療体制で1日が終わる。そう言えば今日は七夕だったな。
「自分も患者さんも無事に回復しますように。この世からコロナが無くなる、、、事は無いので、せめてコロナによる差別が無くなりますように」星に願いを。
7月8日
咳と微熱が続くが、何とか体調は維持している。オンライン診療も慣れてきた。それほど診療も詰まっていない、時々スタッフからの連絡に対応するくらいで時間もあるので、当面のタスクを進めていく。
今日になってようやくホームページやSNSで院長の感染と診療制限のお知らせをする。スタッフの安全、患者さんへの感染の無い事を確信するまで内容がまとまらなかった。
発熱外来を行っている医者のコロナ感染なんて、患者さんにはどう思われるのだろうか、今後のスタッフの求人に悪影響を及ぼさないかな。院長・経営者としての不安はあるが、地域の住民が真実を知らないことにはもっと不安だろう。真実をありのまま告げて対応し、あとは信じるしか無い。
患者になると毎日スマホやPCからMy HER-SYS(マイハーシス)というものに健康状態を登録する。非常に簡単なものだが、体調が良いとつい入力を忘れてしまう。保健所の職員はそれを見て安否確認の電話をしてくれる。彼らの仕事ぶりには頭がさがる。職員とはお互い知っているだけに、仕事を増やしてしまい申し訳ない。
夜になって鼻詰まりと鼻水、咳が強くなる。悪化してきているのだろうかと不安になる。
7月9日
診療所での無料PCR検査(北海道からの委託事業、無症状・非濃厚接触者対象)がスタッフのみで再開となる。本州では新型コロナの患者さんは急増しているし、北海道の玄関口である千歳市では感染が不安な市民もたくさんいるだろうと思う。今は不安ならPCR検査をしないと社会生活が送れない会社や個人も多い。院長不在の時でも当診療所の存在が少しでも地域のお役に立てていればと思い、協力してくれたスタッフにはひたすら感謝である。
国からの援助物資が宅急便で届く。一人分ダンボール3箱の中身は大量の保存食と衛生用品。外出できないため買い物にもいけず困っていたが、これは有り難いと感じる。ちなみに好きなカップ麺「日清どん兵衛きつねうどん」が入っている。これは当たりだ。