発熱外来について②
掲載日:2020.06.16
新型コロナウイルス(Covid19)流行について
本格的流行から非常事態宣言を経て千歳市内でも3つの病院と1つの医院が閉鎖され複数の施設でクラスターが発生しました。当院では発熱外来を設置して「感染症とそれ以外」の患者さんを分けて対処しています。
1)新型コロナウイルスの本質
新型コロナウイルスは他のウイルス感染症をはるかに凌ぐ殺人ウイルスでしょうか。答えは否です。感染力なら水痘(水ぼうそう)や麻疹(はしか)の方が極めて強く、重症度で言えば麻疹やエボラウイルス、デング、狂犬病など枚挙に暇がありません。しかし現状のデータを見る限り、日本においては従来の季節性インフルエンザウイルスと比較しても同等かその前後程度と考えられます。
(季節性インフルエンザの感染者数は、毎年国内で推定約1000万人、年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html)
2)知らないことへの無関心、知らないものへの恐怖
ではなぜ新型コロナ流行で世界はこれほど変わってしまったのでしょうか。「知らないことへの無関心、知らないものへの恐怖」という言葉で説明したいと思います。
毎年流行して莫大な死者を出すインフルエンザには非常事態宣言も一斉休校も起きませんでした。それはウイルス感染について正確な事を知らなかったために多くの人が「発症しなければ自分には無関係」と考えて関心を示さなかったのです。一般の方は「一般的な風邪にコロナウイルス属がいること」、「菌とウイルスの違い」「感染経路の種類」、「感染しても無症状で周りに感染させる無症候性キャリアが存在する」事も知りませんでした。
恐怖を覚えるような知識を知ることも無く、また自分に実害が及ばず、季節が過ぎれば収束していくインフルエンザに多くの人々は無関心でした。
そこに突然現れた「新型コロナウイルス(Covid19)」。今まで危険な感染症はどこか遠く発展途上国の出来事と思っていたのに、「中国発」「(聞き覚えのない)コロナウイルス」「一般人が知らなかったウイルスの知識」「悲惨な芸能人のニュース」などが瞬く間にメディアから流れ出しました。新型と言われるだけあり、確かにインフルエンザを凌ぐ感染力で欧米では医療崩壊がおき、何万人単位での死者が出ると日本も最悪を想定して身構えました。政府から非常事態宣言が出され、医師を始め医療の専門家も「新型コロナウイルス」について誰一人として正解を指し示せる人は居ませんでした。
欧米では軍まで導入した外出禁止令「ロックダウン」が行われ、それでもなお流行は収まりませんでした。全てが「人類が経験していない新しいタイプのコロナウイルス」であり、現代においてなお「信頼に足る治療法も人類の未来も分からないという事実」への恐怖に世界が凍りつきました。
全世界で行われ、今も行われている事には誰も明確な答えを出せていません。これからまた少しずつ新型コロナの実像というものが判明してくると考えています。ウイルスをこの世から無くす事はできませんが、コントロールして共生していく以外の選択肢は無いと思います。基本は「人類の大多数が死ぬようなウイルスではなく、8割の感染者が軽症か無症候」です。「正しく怖がり、正しく対処する」事が大切です。
3)風評被害とエゴイズム:誰にも責任があり、誰も悪くない。
今回の新型コロナウイルスは「グローバルなインターネット時代に現れた、感情に感染するウイルス」といえます。人々の恐怖は実際の感染の拡がりを超えるスピードで様々な情報がインターネットを通じて広がりました。
世界的流行(Pan-demic)に対してインフォデミック(info-demic)とも呼ばれます。
ある人は「世界が破滅する、怖がれ」と叫び、ある人は「そこまでではない、落ち着け」と唱える。恐怖を煽る映像が動画として拡散する。そして誰もその情報について正しさを決められない。
人間は恐怖に囚われると「正しい側に自分がいる事を確認しよう」という気持が働きます。「正常化バイアス」や「防衛機制」が働き、正気では行わない行動に容易に傾きます。
今回の新型コロナウイルス流行で人間社会に現れたのは「排他性、攻撃性」です。
非常事態宣言で日常生活を奪われたストレスは感情のハードルを下げ、なにか不都合なことは「安全でありたい自分を驚かす脅威」として「他者への攻撃で自分の安心を得よう」とする行動になりました。事態を予測する事ができなかったら医師のせい、コロナ患者を受け入れた医療機関に務める人やその家族を差別する。海外からのウイルスだから対応できなかったら政治のせいで外国人を差別する。高齢者は重症になりやすいから活動する若者を差別する。若者は軽症が多いから高齢者に配慮しない行動を取る。
悲しい事ですが、新型コロナ流行による困難を「自分以外の誰かの責任」にするような風潮が蔓延しています。加えて世界のリーダーとされてきた政治家や国家までエゴイズムを隠さなくなり、我々が信じてきた民主主義や自由主義なども信頼が揺らいでいます。
新型コロナウイルスは今まで人類が依ってきたものへの「人間同士の信頼」を「悪いこと、不都合なことは全て自分以外の相手のせいにする」人間の感情が内側から突き崩してしまったのです。
4)医療はどうあるべきか
今回の新型コロナでは医療への信頼も大きく損なわれたと考えています。
緑町診療所で発熱外来を開設してから、他院からの発熱患者さんを引き受けています。それらの患者さんたちは「かかりつけ医」に対して不満を述べられる方も多くいます。
最初に述べたように、多くの医療機関は新型コロナに対処できませんでした。理由はこれまでの医療の常識では予想し得ない事態であった事、発熱以外の患者さんを感染から守るための仕方のない判断であった事も理解できます。しかし体温はバイタルサインと呼ばれるように、生きていれば誰でも上下しますし、発熱は様々な病気で広く認められる病気の一丁目一番地です。その発熱を理由に長年の「かかりつけ医」に受診を断られた事に多くの方が傷ついています。そして日本中のたくさんの医療機関で「それ」が行われた事に国民は失望したでしょう。
アフターコロナの時代に今までの医療がどのように人々の審判を受けるのか、新たな時代の医療が勃興するのか分かりません。医療崩壊を防ぐためでも、従来の医療が無数の病気の中でたった1つの新型コロナという感染症のために、助けを求める人の希望に扉を閉ざしてしまった事は現代医療の信頼への「命取り」であったと思います。
私は有名な教授でも、手術の上手い名医でもありません。北海道の小さなまちで診療所をしているひとりの医者です。それでも目の前の患者さんを断らずに診療する事を今後とも続けていきたいと思います。
最後に、発熱外来も含め勇気を持って毎日働いてくれる緑町診療所のスタッフと、理解と協力を惜しまずにいてくれる訪問看護ステーションつばささん、もりた薬局さんに心より感謝致します。
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